2013/11/28

オートレベルテンショナーの構造について ( Hydraulic Valve Lifter Tension Unit )


M70エンジンには油圧式のバルブオートレベリングテンショナーがヘッドに装備されています


これはロッカーアームやカムシャフトが磨耗により正常なバルブリフト量を確保できなくなるのを防ぐために装備されていて、メンテナンスフリー思想に基づいた設計思想から採用されたと思われます。  BMWのエンジニアも何度もV12のヘッドを開ける作業を想像したくなかったのでしょう(笑)


さて、本来このリフターが正常に機能していれば僅かなバルブクリアランスも調整する必要は無いわけですが、そこは機械ですからどんなものにも故障がつきものです。


リフターは油圧で調整位置を保持するので内部のオイルが保持できないような事態に陥ると、エンジン稼動時にカムシャフトがロッカーアームを叩くような異音が出始めます


同じE32シリーズでもM20系やM30系のシングルカムエンジンの場合はこれらの機能をテンションスプリングで行っているため、スプリング圧が落ちてくると同じような異音を発生したりします。


一般的に油圧抜けによるリフター不良はエンジン始動時の数秒から数十秒と短い時間で改善されます、これはエンジン始動後にリフターに対してオイルポンプから常時油圧が供給されて不足していたオイルの充填が完了するためです。


ではまず外見から見てみましょう、これが新品のリフターです




真ん中に小さな穴が見えますが、そこがオイルの充填口です




底の部分には何も穴はありません




補充口は作動時にこんな感じに開きます




トップのタペット部分はシリンダ構造なので作動中に回転する事もあります、そうすると当然ながら補充口は見えない位置に移動してしまいます




オイルの補充口が開かないと油圧不足になりトラブルになるのか? と勘違いする人が居ると思いますが、実はこの補充口の位置関係はあまり重要ではありません。 実際にはシリンダ部分の回転クリアランスも想像以上にあり補充口にそれなりの油圧が掛かればシリンダ内部にオイルは容易に侵入します。


より重要な部分はこのテンショナーの内部構造を見れば理解できます




上図から判るのはシリンダ内部に溜まるオイルは最下層にあるプレッシャチャンバーに補充するためのオイルであると言う事です


オイルポンプから送られてきたオイルは補充口を通り、一旦シリンダ内部のサプライチャンバーに溜まります


サプライチャンバー下にはレベル位置を保持するためのボールバルブがあり、躍動で最下層のプレッシャチャンバーにオイルが充填された時点でワンウェイバルブとして働きその後は常時レベルを維持する仕組みになっているからです。


未使用の新品パーツはオイルが充填されていないため指の力程度で容易にトップ部分を押し下げられますが、最下層の油圧チャンバーが正常に機能しているものは当然ながら微動だにしません。



20万キロ近く走行した車両のテンショナーと新品のテンショナーのサイズを比べてみました








正常だと、誤差は殆どありませんね


最後に、実際にヘッドに装備されている状態の参考画像です。







皆さん、少しは理解のお役に立てましたかね、って言ってもV12気筒を整備するようなバカはそうそう居ないか(笑)