2014/04/08

バルブボディの分解整備をご検討中の方へ


ATに問題を抱える多くの方々がネット検索や実際に施工を受けたオーナー様の記事からこのブログをご覧になってご相談頂く事が増えてきました。  ATの種類により発生する症状や不調原因も異なりますし、ご自身が把握されている症状が軽度の問題なのか深刻な事態の兆候なのかといった判断は難しい事だと思います。


相談されるオーナーさんの99パーセントはATに関して予備知識が無いのが普通ですから、適切な症状を伝える事も難しいでしょうし「改善が見込めるのか」「費用はどれくらい掛かるのか」「専門業者に依頼すべきなのか」と色々疑心暗鬼になるのは当然だと思います




ATに限らず車両の修理や整備に関しては明確な原因が特定さえされていれば修理の可否や費用は比較的容易に出せるものです。  でもATの修理は何処に聞いても40万円~50万円は掛かると言う回答が帰ってきますね、何故でしょう?



答えは簡単です、繊細で複雑な機械で修理が難しいという事です




問題が生じている車両はそれなりに年式も古く走行距離も多いものばかりです、AT以外の部分でも修理や整備が必要なところが多数あるのが普通です。  でも殆どの車両はATに関して全くと言って良いくらい長期に渡りメンテナンスはされないまま運行されてきたものです。


車両に搭載されている構造部品の中でもATは一番部品点数が多いものですが、何の整備もされないまま過酷な運行に耐えています。 仮にあなたの車両でエンジンをオーバーホールするとしたら一体幾ら整備費用が掛かるかを想像してみて下さい、数十万円なんてのは当たり前の価格ですし修理を諦めてリビルドしたエンジンを入手するのも高額な費用が掛かります。


でもエンジンとATが修理に関して異なる点があります、それは整備情報と部品供給の仕組みです。  輸入車であっても車両の補修部品や整備情報はメーカーからディーラーや修理工場に必要に応じて供給されまています、これは部品発注システムや整備資料システムがあるお陰ですがATについてはそうした仕組みが有りません。




ディーラーや修理工場に修理を依頼してもアッセンブリ交換になるのはそのためです。 ATはフィルタやガスケット等の消耗部品を除き補修部品としての供給をディーラー向けに行っておらず修理自体ができない訳です。


でもそれでは故障したときに全て一式交換を強いられるので非効率極まり無い事態になりますね、そこでAT供給メーカーはサービスステーションネットワークの仕組みをつくり技術情報や部品供給を各国で行っている訳です。 国内でも認定を受けたところが幾つかあり各所のディーラーや整備工場から修理を受けています。


前述のようにATの修理には「情報」「部品」「設備」「技術」の4つが必要で実際の修理には手間も時間も掛かります。  繊細なうえ重要な構造部品でもあるため再修理の必要が無いようにリビルドするのが一般的であり当然費用も突出するわけです。


しかし、どんな機械部品もそうですが適切なメンテナンスをするのとしないのではその寿命は大きく違ってきます。  問題が生じている部分を適切に交換や整備すればまだまだ現役で使えます。  エンジンでもオイル交換をせずに使用を続ければ数万キロでダメになります、ATだってATFで駆動している以上オイルは劣化もしますし汚れも酷くなります。


エンジンやATにおけるオイルの役目は「冷却」「潤滑」「洗浄」等ですが、ATには重要な要素として「油圧作動」があります。  ほぼ全ての機構動作がシリンダーとピストンによる油圧で行われていますからそこにオイルと一緒に多量の不純物が循環すればトラブルになるのは当然です。


ATFは交換不要とか交換すると壊れるとか世間一般には都市伝説が飛び交っていますが、ATFを交換せずに運行を続ければ確実に寿命は短くなります。  構造上ATFは交換しなければならないものです、交換不要なら最初からフィルタも不要です(笑)




ATが致命的な障害になる殆どの原因は「油圧不良」によるものです、本来適切な油量と油圧があればクラッチの破損やシフト動作不良というのは起きない訳ですがATFや機構内部に不純物が堆積していると可動部分に障害が発生する確率が高くなり、運行中に生じた油圧不良で破損に至ります。


それ以外にも「電磁バルブ不良」「センサ不良」「スプリング疲労破損」「チェックボール消耗破砕」等々トラブル原因は多々あります。  ただし、一般的に相談の多い「シフトショックが大きくなった」「シフトが切り替わりにくくなった」「バックに入らない事があった」と言ったトラブル兆候の状態は油圧動作不良の大切なシグナルです。  この段階で早期に対策をすればかなりの確率で症状は改善されて寿命を大きく伸ばす事が期待できます。


ならばと、ここで普通のオーナーの皆さんは「ATF交換をすれば良いんだ」と短絡的に考えてショップやディーラーに作業を依頼されるのですね、そして結果は悪い方向に向かう確率が高くなります。  何処にATF交換を依頼しても返ってくる言葉は「壊れるかもしれませんよ、それでも良ければ作業します」です、オーナーにしてみれば無責任この上ない回答ですが(笑)


そりゃそうです、ATFフィルタとATF交換だけでは肝心のバルブボディ内部の汚れは綺麗になるどころか血管の血栓が流れ出るように脳梗塞や心筋梗塞を引き起こします。  ATではすなわちこれ即死を意味します。


依頼されたほうもそれは判っているのです、「ならばオーバーホールしてくれりゃ良いじゃないの?」 と思うでしょう、それが出来るところなら最初からそう勧めていますよ。  バルブボディやATのオーバーホール技術を持っているメカニックが居るところは早々ありません、補修部品の入手も困難ですし高額な工賃が掛かります。




当方はATは一部の修理は出来ないとか費用が掛かるものだとの認識に一石を投じて悩みを抱えるオーナーさんの相談に応じています。

ATのクラッチが既にダメージを受けて盛大に滑りが生じてしまったような車両は残念ながら高額の修理費用を掛けるしかありませんが、トラブルが進行中の個体ならば早期の治療で費用も安く寿命を伸ばせます。

このブログを見て多数の施工例をお読みになって皆さんのATメンテへの認識が少しでも変わってくれればと私は思います。