2012/08/20

合宿2日目(Repair Camp day 2)

今回メンテ合宿の主な目的は、未だ完調とは言えないB12のエンジン調整です。 今のB12はE32の整備仲間である友人から車両に整備の愛情を注ぐ事を条件に譲って頂いた個体ですが、何せ車齢は20年以上経っていますから運行するには色々と手間隙が掛かります。

車と言うのは新旧に関わらず長期に保管するよりも普段運行をしている方が良い状態で維持できる傾向にあります。 オイル・水・燃料といった機械にとっての必需油脂が運行により適時供給と循環が行われるからですが、普段運行をしない状態で保管していると2年もしないうちに面倒な事が多発してきます。

実際、最初の750を再起動したときは全体的な整備が終わるまで4年以上必要でしたが、B12は以前にもまして大変です、既に手元に来てから4年以上ですがまだまだ手を加える必要があり終わる気配がありません。

エンジンは一通り電装関係の補修やリプレイスは終わったのですが、まだ納得のいくレベルに落ち着いていないので今回はバルブ関係の点検とステムシールの交換をする事にしました。 車両の走行距離自体は16万キロとまだまだヒヨッ子で通常ならばM70エンジンは20万キロ以上ステム交換をする必要は無い訳ですが、都市部での運行がメインの私の場合実際の走行距離よりも車両を運行している時間は長く特に渋滞による熱害でゴムやプラスチック部品の劣化は酷い傾向にあります。

友人の間でもステムシールを交換した人は何人か居るようですが、オイル消費量が激減した訳でも無しエンジンフィールが激変した訳でも無く、とお約束の結果なので今回もオーナーの気分転換のためのメンテという結果に終わるのではと予想をしています(笑)



さて、では大筋の作業内容と手順を見ていきましょう


他のところはともかくエンジンは開けてしまうと車両を動かす事が出来なくなりますので、作業前に必要な交換部品や破損の可能性がある予備パーツ類はしっかり用意しておきます。 細かな部品を紛失してしまったり再利用できない状態になる事が予想されるので交換用のステムシール以外にも下記のようなものを用意しました、

コッタ         予備1組
スプリングリテーナ 予備1組
ステムシール    予備数個
Hydric  Lifter    予備数個

今回の作業場所は風雨や夏の強い日差しからオーナー達を守ってくれるガレージなので持久力が衰えつつある私ら中高年世代には有り難い限りです、友人のガレージには大型の冷蔵庫も完備されていて熱中症対策のために多種多様なドリンク類も常に冷やされています。 参加者は必要に応じて冷蔵庫上にある貯金箱に寄付をしてドリンクを頂くようにしています

ステムシールの交換に必要な小道具類です

車両はピット上に配置しますE32のM70エンジンは整備中に工具やパーツをエンジンルームに落とすと9割近い確率で途中に引っ掛かってしまい見つけ出すのが困難です。 実際今回も不注意でロッカーアームガイドを落としてしまいサブフレーム上に隠れたのを救出するのに1時間以上費やす事になりました

他の車両と違いこの世代のBMWは画像のようにボンネットが逆開きです、V12エンジンを整備するには左右フェンダー部分からしか作業が出来ないうえ長時間の中腰を強いられるので脚立などに乗らないと後で酷い目にあいます。

天気も良く作業日和ですが、この日の作業開始は7時前・・・ 普通そんな時間から整備はしませんね(--;

ガレージ作業に向かう友人の後ろ姿

整備を待つB12エンジン、まずはタワーバーの除去

インテークを外すのにリザーバタンクも邪魔ですから外します

スロットルバルブの除去、この辺はコンパクトなツールが活躍します

燃料コンテナはセンターにトルクスでマウントされていますので外します、各所の燃料ラインを外して取り除きます

ようやくインテークの除去ですが全て10mmのナットで24箇所あります、ナットは奥深くにありますので9.5sqのロングエクステでアクセスします
 
非常に狭くて奥深いところで一気に緩めると確実にナットが落ちて面倒な事になりますので 、10mmのボックスレンチで2回転程緩めます
次はマグネットタイプのヘッドに換えて緩んだナットを取り出します

一部のナットは干渉する部分があるのでこんな感じでアクセスする事になります
地味な作業ですがひと段落すれば後はインテークを降ろすだけです、運転席側のインテークには燃料のリターンラインが共締めになっていますので外すときは助手席側から載せるときは運転席側からになります
無事にインテークは降りました、インテークが無ければヘッドカバーの取り外しは簡単です
インテーク穴やヘッド内のオイル穴にペーパーで養生をしてプラグケーブル・プラグ・デスビキャップを外していきます
カムシャフトやシリンダを回転させる必要があるので2個あるプーリーテンショナーは緩めておきます

プラグの焼け具合は悪くはありません
おおよその上死点位置を把握するためにデスビ側のポイント位置目印を付けます、M70エンジンの場合ローター側のこの黒い皿は回転するのでおよそ60度単位でマーキングして適当な位置で固定してもOKでしょう

ローターの接点位置からデスビ側のコネクタ根元を見るとシリンダ番号の刻印が見えます、純正のプラグケーブルならばケーブル自体に番号が印字されているので容易に判断できます。 私は社外品のシリコンケーブルなのでタグを付けてあります

シリンダ上死点は点火時と排気から吸気移行時の2度有りますが多分分かるでしょう(笑)

ロッカーアームやスプリングをバラすにはカム上部にあるオイルラインを外さなければいけません、たまにこれを固定しているほろーボルトが緩んでいる車両がありますが今回は特に異常はみられませんでした

バルブ周辺の分解には北米製のスプリングコンプレッサを使います、ロッカーアームを取り出すにはバルブを目一杯押し下げる必要があるのでここではシリンダを逆の下死点にしておいて下さい。 下死点が分かりにくいときは外そうとしているバルブのもう一方のカム山が真下にくるようにカム位置をセットすれば大丈夫です、これにより一方のバルブは最大開口にあるのでピストンに干渉する心配はありません

逆側のエグゾーストバルブのロッカーアーム取り出し時は先程のインテーク側のカム山が真下にくる位置までエンジンを回して同じように取り出します。  一部の経験者からはこれら一連の作業時にヘッドからカムを浮かせた方が楽だとのアドバイスを頂きましたが、この後のコッタ処理も含め特にカムを浮かせなくとも作業が出来る事が確認できました。





ロッカーアームの取り出し方法

ロッカーアームの除去まで終わったところ

次はコッタを外してステム交換をするためにバルブを固定します、バルブはコッタとスプリングでヘッドに固定されているためこれらを外すとシリンダ内に滑り落ちてしまいます。 シリンダを上死点にしていても僅かに下がるクリアランスがあり、そのせいでコッタのインストールは不可能です

バルブを固定する方法は一般的にプラグホールにアダプタを付けて圧縮エアーを送りヘッドに密着させるのですが、ステムの取り外しや取り付けの拍子にバルブが脱落する危険性もあり不安要素でもあります。 今回はJohan & Sean's さんのサイトで使われたロープによる手法を用います

用意するのはプラグホールよりも若干太いアルミ管とその中に入る太さのロープです、Johanさんのサイトではロープをドライバー等で押し込んでいましたが友人がロープをガイドに通す事で作業性が良くなると証明してくれてそれらの道具一式を貸してくれました。

シリンダを上死点位置に戻しそこから更に60度シリンダ回転を戻します、これによりシリンダ内に有る程度のスペースが出来てロープを入れる事ができます。 

ガイドにロープを通してロープを2インチ(5-6cm)程度出し、そのままガイドがプラグホール終端に当たるまで差込ます。 

行き止まったらガイド後部5-6cm程度の位置でロープを掴み固定します、そしてガイドをロープの巻き方向に回転させながら引き戻すとガイドだけがスライドしてきます。 

今度はガイドとロープを一緒に保持したままプラグホールに差し込むとスライドさせた分のロープがシリンダに入っていきます、最初の50-60cmはこれだけで簡単に入っていきますがシリンダ内がロープで満たされ始めると今度はロープ自体を少し回転させる等するとシリンダ中で捻れて入りやすくなります。

およそ1m程度入ると十分な量なので次からの作業目安になるようにロープにマスキングテープ等でマーキングしておくと良いでしょう


十分にロープが入ったらクランクを回転方向に回すと上死点手前で硬くなる筈です、長めのトルクレンチやラチェットで回り止めをしてからコッタの取り外しに掛かりましょう

スプリングコンプレッサでしっかりと圧縮すればコッタはマグネットツールだけで簡単に取り出せます

今回作業を始めて直ぐに面倒だと感じたのはスプリングコンプレッサの組み換え作業です、ロッカーアームやコッタを取り出す際にインテーク側とエグゾースト側で工具の組位置が異なります。 これを毎回どの位置だったか記憶をデジカメ画像で確認しながら組み替えするのに以外と時間が掛かります、作業中にグローブがオイルまみれになるのでちょっとした事でももどかしさを感じます。 そこで友人が持っているもう一つのコンプレッサを借りてそれぞれ専用のポジションのままにする手法を取りました、これで何も考える必要はありません。

ステムプライヤーで根気良く回しながら古いステムシールを抜き取り、新しいシールを傷つけないようにインストールするためにバルブカバーを被せます。 これは新しいシールがコッタガイドで傷つかないようにするためですが、実は古いシールを抜き取るときに結構な確率でプライヤーが外れてバルブにプライヤーがぶつかります・・・  だから決してバルブを保護するためのものではありません(笑)

新しいシールはインストール前に良く新油に浸します

バルブカバーがあるので容易にインストールできます

奥まで指でスライドさせていきガイドを抜き取ります

10mm径程度のアルミ管等を当ててコッタをプラハンで打ち込みます、軽く打ち込んでいると音が変わり入ったことが分かります

古いシールと新しいシールの比較、思いのほか古いシールの程度は良好です

シールのインストールが終わると面倒なコッタのセットです、コッタは新油に浸しておいて角度のついたピンセット等で運びオイルで吸着するようにバルブに当てます。 片側のセットが終わったらピンセットでバルブに沿うように半回転させて反対側に回し残りのコッタを再度セットすれば完了です、ただこの作業は一人だとコンプレッサの保持に片手をとられて集中できないので出来れば二人一組で誰かにコンプレッサを保持して貰うのが得策です。

 インテーク・エグゾースト両方のコッタセットが終わったらロッカーアームとガイドキャップを付けますが、その前にクランクのロックを解いて少し戻しシリンダからロープを全て抜き取ります。 シリンダはこれでフリーになりましたがロッカーアームのインストール時にはバルブを最下限まで押す必要があります、どちらかのカム山が真下にくるようにクランクをセットし直しもう一方のバルブを一杯まで圧縮してからロッカーアームをインストールします。

ロッカーアームは外すときは簡単ですがインストール時には油圧リフターが邪魔になったりガイドキャップのクリアランスで上手くセットしにくい状況です、今回は油圧リフターを先に抜いておきガイドキャップとロッカーアームをやや奥側に仮セットし油圧リフターを入れてそこに戻すような手順をとりました。

カムシャフトを浮かせて作業すればこの辺りはもう少し簡単かも知れません

BMW初のV12気筒であるM70エンジンはメンテナンスフリーを考慮して設計されていてバルブ関係は油圧リフターに問題が無ければバルブクリアランスの調整は不要です。 油圧リフターの不良は大別して「油圧抜け」「内部スプリング破損」「磨耗」で前者2種は指で押したり引いたりする程度で確認が可能です、後者の磨耗はオイル管理が悪かったりロッカーアームに不良があると発生します

ロッカーアーム側と合わせてみても特に段つきや違和感はありません

念のため新旧のリフターに磨耗差が無いか点検してみます

少なくともコンマ1mmの範囲では誤差が無いようです、本来ならマイクロメーターくらい正確に測ったほうが良いのでしょうが、気持ちの範囲と言う事で無視しました


後はこれらの作業を繰り返していくだけですが、最初の1気筒でどういう手順が作業効率が良いか色々検討した結果、片バンクのロッカーアームだけ先に全て除去して残りを順次各気筒作業する方向でいきました。

予想では交換インストールにおよそ2日の工程と踏んでいて2日目の終了時点で丁度半分の片バンク終わりました、作業中に一度バルブのガイドキャップをエンジンルームに落としてしまい捜索に1時間程無駄をした事や作業疲れから幾つか工程を間違えそうになった部分もあるので実際の作業時には余裕を持ってやるのが良いでしょう。


では、3日めの合宿へ続く・・・・